本の庭

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沖縄05

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琉球開闢の伝説に関わる聖地である斎場御嶽には、旧日本軍がアジア太平洋戦争時に配備した砲台の跡が残っています。

 

琉球文化の神聖な場所に戦争のための武器が設置されていたとは、戦争においていかに文化が無化されていたかが窺われます。

 

ですが、聖地の多くはこういう見晴らしのいい場所にあると考えると、軍事的目的にも合理的ということなんだろうとも思います。

 

場所性とかSense of Placeとか、そういう類いの話ではよく場所の記憶がその後にも引き継がれるなんて議論があるのですが、この聖地に置かれた砲台の跡も、戦後74年目を迎える今となっては神聖性が覆い被さり聖なる砲台跡になっている、なんてことにはならないでしょうか……。

 

さて、この旅行の第2のテーマはダークツーリズムでしたが、沖縄のダークツーリズムの目的地ってあまり多くはならないように思っていました。

 

実際に今回のダークツーリズムの行き先は糸満市内しか予定してなくて、3日目の午前中に斎場御嶽に訪れてから久高島に行った後に糸満市内を巡ることを予定していました。

 

ですが、午前中に行った斎場御嶽にダークツーリズム的なファクターを見つけてしまいました。砲台跡です。

 

もしかしたら、沖縄のダークツーリズムは割と色々なところに見つけられるのかもしれない、とそんな気がしてきました。

 

斎場御嶽について、斎場(せいふぁ)というのは「最高位の」という意味があり、御嶽というのは祭祀を行う施設のことで、王族が祭祀に用いるような神聖な場所であったようです。

 

斎場御嶽の内部は岩場に囲まれた空間にあり、植物が屋根のように茂っているので、屋外なんだけど屋内にいるような雰囲気が何となくあります。

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中にはいくつかお祈りする場所があります。

 

一番奥にある三庫里(さんぐーい)と呼ばれる祈りの場には琉球創世神であるアマミキヨが降り立つ場と言われていて、そこからは久高島が望めます。

 

つまり、地形が作り出したこの閉塞空間が、聖なる久高島と接続されてこの場所が神聖性を帯びたということでしょう。

 

ところで、沖縄南部は戦時中の鉄の暴風とも呼ばれる空爆で大部分が破壊されたのですが、斎場御嶽はほぼ無害だったようです。

 

それでも爆撃の跡は残っていました。

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艦砲穴(かんぽうあな)と呼ばれるこの穴、今ではあまり多く残っていないようで、この斎場御嶽の艦砲穴は貴重な戦争遺跡の一つなんだそうです。

 

このような聖地だからこそ艦砲穴が残りやすい、ということもあるのでしょう。

 

この日の午後には、平和祈念公園を歩いて回ってからひめゆりの塔に行きました。

 

ひめゆりの塔の入口前は賑やかな雰囲気で、観光産業がきっちり入り込んでいました。

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ダークツーリズムでも来訪客に向けた小売業や飲食業が発展することは当然あるのだろうと思いますが、こういう場所を訪れる時の心構え(つまり厳粛な心持というか)では、その観光地と無関係な小売業やら飲食業にはやや引いてしまう気持がありました。

 

ですが、そもそも観光客とはこの地に対して無責任に来訪する不能の主体なわけですから、その観光客をターゲットにする無責任な産業が入ることは自然なんだろうとも思います。

そういえば、2日目に行った識名園にも戦争の跡が残っていたのでした。

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識名園には地下壕があり、ここは主にその空気孔として、時折出入口としても使われていたのだそうです。

 

それが今も残っているのです。

 

識名園沖縄戦で破壊されて、復元整備を終えた1996年に公開されているということです。

 

意図的にこの空気孔も残されたのだろうと思いますが、そうすることで観光客は観光地に訪れたつもりが、その悲惨な歴史にも遭遇することになります。

 

つまり、沖縄のダークツーリズムというのは、一方では一般的な観光地として整備される場所にこうして残されるほどにありふれていて、観光客はそれに意識せずとも遭遇することがある、ということです。

 

他方ではダークツーリズムの観光地に行ってみると、そこはお土産屋さんや飲食店が並んでいて、一般的な観光地と変わりません。

 

沖縄のダークツーリズムは、そういう逆説的な関係の上に成り立っているものなんだろうと思われました。